仁王像とは?阿形・吽形の違いと、門を守る姿の内側
門の両脇で、筋肉を張り、こちらを見据える二体の像。怖い顔に足が止まっても、口元を見比べると、一方は口を開き、もう一方はきゅっと閉じています。
仁王(におう)は金剛力士(こんごうりきし)とも呼ばれ、寺を守る尊像です。口を開く阿形(あぎょう)と、口を閉じる吽形(うんぎょう)。一対の迫力の奥には、仏の教えを守る役割と、その像を造り、伝えてきた人々の願いがあります。
怒った顔が、寺の入口にあるわけ
穏やかな如来像を思い浮かべていると、仁王の険しい表情は意外に見えるかもしれません。寺の入口に置かれる仁王には、仏教を守る護法の役割があります。門をくぐる人の前に、力を込めた守護の姿が立っています。
仁王の名とともに覚えたいのが、金剛杵(こんごうしょ)です。京都国立博物館所蔵の金剛力士像の解説では、手に持つこの道具を、雷を形にした古代インドの武器と説明しています。像の手元を見ると、力士という名が、体のたくましさだけで付いたものではないと分かります。
同じ護法の尊像でも、毘沙門天・多聞天とは区別されます。門に立つ二尊と、四天王の一尊では、名前も組み合わせも異なります。怖い顔の像をすべて「仁王さん」と呼ぶ前に、案内札の尊名を読んでみると、境内にまつられた仏像の関係が見えてきます。
阿と吽は、口元から全身へ
阿形と吽形を知る入口は、開いた口と閉じた口です。ただ、二体を口だけが違う同じ像として見ると、作り手が表した動きを見落としてしまいます。
東京国立博物館の研究員による解説は、滋賀の蓮台寺に伝来した平安時代の一対を比べています。阿形は左腕を上げ、腰を左へ張り出した、しなやかな姿。吽形は下半身に重みがあり、胸と肩を張った構えです。開閉する口に加え、体全体の動きが対照をなしています。
自分で見比べるなら、片方の口を見たあと、肩、肘、腰、足元へと視線を移してみます。もう片方も同じ順で見ると、同じように力を入れているようで、体の支え方が違うことに気づけます。正面から読めない部分は、像の写真や解説図も助けになります。
一対として置かれた距離や向きも、見え方に関わります。一体ずつの写真では大きく見えた身振りが、二体を一緒に見ると呼応して見えることもあります。「どちらが強いか」という勝負から離れて眺めると、門の空間全体へ目が向きます。
南大門の巨大像を造った人々
東大寺南大門の仁王像は、1203年に造られました。寺の公式解説によれば、像の高さはいずれも8.4メートル弱。運慶や快慶らの仏師たちが、69日間で造像したと伝えています。
これほど大きな像を前にすると、一人の名匠の腕前を想像したくなります。しかし、1988年から1993年にかけての修理では、像内の経巻や文書、墨書から、定覚や湛慶も大仏師として関わったことが明らかになりました。目に見える彫刻の背後に、複数の仏師が働いた時間があります。
顔の表情や筋肉を眺めたあとで、像の中に残された文字を読む。ここでは、美術作品としての見事さと、造像に関わった人の名前がつながります。完成品だけを見ていると気づきにくい、共同で造るという仕事にも目を向けられます。
像の内側に納められた、経巻と願文
文化庁の指定資料には、阿形の金剛杵に残る「建仁三年七月二十四日始之」などの古い銘が記されています。「始之」は、この日に造像を始めたことを伝える短い言葉です。別の像内の銘には、八月七日に金剛力士を立てたことが記されています。大きな像の歴史を、こうした一行ずつの記録からたどれます。
納入品の一覧には、阿形・吽形それぞれの経巻のほか、願文や結縁交名も並びます。吽形に納められた願文には、建仁三年八月八日という年記と、書き残された人の名があります。像内には、造る作業の記録とともに、仏との縁を結ぶ人々の祈りも置かれていたのです。
銘の年月日を見るときは、その横にある動詞も手がかりです。「始めた日」と「立てた日」では、指す作業が違います。造像年だけにまとめず、何をした日なのかまで読むと、完成へ向かう途中の営みが少しずつ浮かびます。
外側に表された守護の力と、内側に託された願い。その両方を知ると、仁王を見上げる時間に奥行きが生まれます。腕の太さや迫力を感じながら、経を納め、名を記した人たちは、何を大切にこの像へ関わったのだろうと考えられます。
門をくぐるときに、名前を一つ残す
参拝から帰ると、立派な門だったことは覚えていても、どちらの像を長く見たのかは曖昧になりがちです。写真と一緒に「阿形の上げた腕」「吽形の足の構え」と一つ書き留めると、後からその寺の解説を読む手がかりになります。
門そのものにも、形や呼び名に込められた意味があります。山門と三門の違いを知ることと、そこにまつられた仁王を知ることは、別々の入口から同じ場所を見直す作業です。門を通り過ぎる前に一度だけ顔を上げると、今度は像の表情だけでなく、守られている寺の空間にも目が届きます。
よくある質問
仁王像の阿形と吽形は、どこで見分けますか?
まず口元を見ると、開いているのが阿形、閉じているのが吽形です。配置の左右だけで覚えず、目の前の像の口と案内札を合わせて確かめられます。腕や腰の動きにも、それぞれの像の違いがあります。
仁王と四天王は同じ仏像ですか?
仏教を守る尊像という点は共通しますが、別の尊格です。仁王は金剛力士とも呼ばれ、門に立つ一対の像で親しまれています。四天王は持国天・増長天・広目天・多聞天の四尊で、多聞天を単独でまつるときには毘沙門天と呼びます。