がんを親にどう伝えるか。自分の療養と、家族への話し方
がんと診断されて、まだ自分も説明を受け止めきれない。その日のうちに親へ電話しようとして、何から話せばよいか分からなくなる。心配をかけたくない気持ちと、隠したまま通院を続ける難しさが、同時にあるかもしれません。
親に伝えることは、病名を一言告げれば終わる用事ではありません。誰に、どこまで話し、何を頼むのか。これから療養する自分の生活を含めて準備してよい話です。
「伝えるか」の前に、今回の話の範囲を決める
大阪公立大学医学部附属病院の案内は、親の健康状態に不安がある場合や理解が難しい場合、病状や治療内容をどこまで伝えるか、あらかじめ決めておくよう勧めています。病気を話すことで、暮らしの協力を得られることも挙げています。
たとえば「診断名は伝える。治療については次の診察で確認してから話す。今週は通院日の送迎だけ相談する」と分けてみます。言えることが少なくても、まだ決まっていないことまで埋める必要はありません。説明を聞いて分からなかった点は、そのまま質問として医療者に戻せます。
自分が患者である今回の話と、これまで親の通院に付き添ってきた時とでは、役割が違います。普段は家族の予定をまとめている人も、自分の療養中には人に任せたい仕事があるでしょう。「病名を知らせること」と「今後も家族の世話を全部続けること」を、一緒に約束しなくてよいのです。
紙に書くなら、病院から説明されたこと、確認待ちのこと、親に頼みたいことの三つを分けるだけでも、話の出発点になります。誰にも見せない下書きから始められます。
愛語は、安心させるためなら何でも言うことなのか
仏教の『瑜伽師地論』巻四十三は、菩薩が人に関わる四摂事の一つとして愛語を説きます。恐れている人を慰める言葉を挙げる一方、妄語などを離れ、知っていることは知っている、知らないことは知らないと語ることも含めています。教えを説き、人を善い道へ導く文脈での言葉です。
この二つを一緒に読むと、慰める気持ちと、確かでないことを確かだと言わない姿勢を両立させて考えられます。家族との会話でも、「絶対に治るから何も心配しないで」と約束するほかに、「治療について先生と相談している。決まったことから話したい」と言う道があります。
また、「今は詳しく話せない」と伝えることと、架空の診断を作って説明することは違います。愛語を口実に患者へ全情報の即時開示を迫るのも、この論書から導かれる医療上の決まりではありません。相手を思って言葉を選ぶ時、自分が今どこまで言えるのかも、会話に含められます。
一人で説明役と慰め役を兼ねなくてもよい
北海道医療センターの緩和ケア室は、親の性格や健康状態、同居の有無などで伝え方が変わるとしています。頼れるきょうだいや親戚に協力を頼む方法、別の家族を介して伝える方法も紹介し、患者自身が親を支える負担にも触れています。
同席をお願いするなら、役割も話しておくとよいでしょう。「私が話す間は聞いていてほしい」「病名を言うところだけ代わってほしい」「父が質問したことをメモしてほしい」。単に誰かが一緒にいることと、本人の望む助けになることは同じではありません。
親が質問を重ねても、その場で全て答えようとしなくてかまいません。「それは私もまだ聞けていない。次の診察で確認する」と置けます。医師の説明について別の意見を聞きたい時にも、何が疑問なのかを自分で整理する時間が必要です。親を納得させるためだけに、その場で治療の方針を決める話にはしないでおきましょう。
もし声が出なくなりそうなら、書いたものを渡すこともできます。「今日はここまで。続きはまた話したい」と添えるだけで、手紙を完結した説明書にする必要はなくなります。
伝えた後にも、自分の休む時間を残す
親が黙る、泣く、繰り返し電話をかける。最初の反応が思い描いたものと違っても、それだけで話し方の失敗とは決まりません。同時に、その反応を患者一人が受け止め続ける予定にもする必要はありません。
「治療の日は電話に出られないことがある」「親戚に知らせる前に私に聞いてほしい」と、連絡の希望を付け加えられます。親が心配して情報を集めてくれる場合も、「今は新しい治療の記事より、食事を届けてもらえる方が助かる」と、必要な助けを具体的に言ってみます。これは病気の説明とは別に、暮らしを相談する言葉です。
話すこと自体がつらい時は、受診先でそのまま相談できます。北海道医療センターも、家族への説明で気持ちがすり減る時には緩和ケア室などで話を聞けると案内しています。自分の病院ではどこに相談できるか、看護師や窓口へ尋ねてみてください。
親を思う気持ちがあるほど、元気な声を作って電話したくなる日もあるでしょう。それでも、「今日は疲れているので短く話したい」と言う余地を残せます。伝える内容だけでなく、伝える自分にも休息が必要です。
よくある質問
がんと診断されたら、親にすぐ全部話すべきですか?
一律には決められません。親の健康状態や理解のしやすさを考えて、どこまで伝えるか準備する方法があります。自分も説明を整理できていない時は、医療者に家族への伝え方を相談できます。
親が泣いたら、落ち着くまで自分が支えなければいけませんか?
療養する本人だけで親の気持ちを支える必要はありません。頼れる家族に話し相手をお願いしたり、自分が話せる時間を伝えたりできます。泣かせないことを説明の成功条件にしなくてもよいでしょう。