持戒第一:優婆離尊者の戒律に生きた生涯 – 卑しい床屋から律蔵編纂者へ

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厳格な階級制度が存在した古代インド社会で、身分の低い床屋から身を起こし、戒律の厳格な遵守と深い理解によって仏陀の賞賛を勝ち得て、僧団の中で「持戒第一」と称えられた優婆離(ウパーリ)尊者。彼の物語は、カースト制度の壁を乗り越え、仏法の平等性と、すべての衆生が仏性を持つという真理を体現しています。

低い身分:カースト制度下の床屋

優婆離尊者(ウパーリ)は、古代インドのカピラヴァストゥ国で、シュードラ階級に生まれました。当時のインド社会は、バラモン(司祭)、クシャトリア(王族、武士)、ヴァイシャ(商人、農民)、シュードラ(労働者、奴隷)の四つの階級に厳格に分けられていました。シュードラは最下層の階級であり、卑しい、不浄な存在と見なされ、他の階級から差別されていました。

優婆離の職業は床屋であり、これは当時、卑しい職業とされていました。彼の毎日の仕事は、王族や貴族たちの髪、髭、爪を切ることでした。生活は苦しく、身分も低かったにもかかわらず、優婆離は常に善良で正直な心を保っていました。

出家のきっかけ:カーストを超える平等

仏陀が悟りを開いた後、故郷のカピラヴァストゥ国に戻って教えを説くと、多くの釈迦族の王子たちが次々と出家し、仏陀に従って修行を始めました。優婆離は釈迦族ではありませんでしたが、仏陀の教えに深い敬意を抱いていました。彼はカースト制度の束縛から解放され、真の解脱を求めることを切望していました。

ある日、優婆離は勇気を振り絞り、仏陀の前に進み出て、出家を願い出ました。仏陀は慈悲深く彼を見つめ、尋ねました。「優婆離よ、出家して修行することは非常に厳しいことだと知っているか?今の生活を捨て、僧団の戒律を守ることができるか?」

優婆離は固い決意をもって答えました。「世尊、私は全てを捨て、戒律を守り、精進修行することを誓います。」

仏陀は優婆離の出家を快く許可し、自ら彼に剃髪授戒を行いました。これは当時のインド社会では極めて異例なことでした。なぜなら、伝統的な考え方では、シュードラ階級の人は出家して修行する資格がないとされていたからです。仏陀のこの行いは、仏教の「衆生平等」の理念を如実に示しています。

僧団での生活:持戒第一、自らを律する

出家後、優婆離尊者は全身全霊を修行に捧げました。彼は仏陀が定めた戒律を忠実に守り、精進し、どんな些細な過ちも犯しませんでした。

戒律は仏教僧団の行動規範であり、修行の基礎でもあります。戒律の内容は、生活のあらゆる側面に及び、衣服、食事、住居から言動に至るまで、詳細な規定があります。

優婆離尊者は戒律を厳格に守るだけでなく、戒律の開遮持犯(どのような状況で許され、どのような状況で守らなければならないか)について深い理解を持っていました。彼は具体的な状況に応じて、戒律違反かどうか、違反した場合の軽重を正確に判断することができました。

ある時、一人の比丘が誤って虫を踏み殺してしまい、深く後悔しました。彼は自分が殺生戒を犯したかどうか分からず、優婆離尊者に教えを請いました。

優婆離尊者は事の経緯を詳しく尋ね、こう答えました。「あなたは故意に殺生したわけではなく、しかも虫は非常に小さい。これは『誤犯』であり、戒律違反には当たらない。しかし、今後同じようなことが起こらないように、歩く時はより注意しなさい。」

優婆離尊者の説明は、戒律に則っているだけでなく、慈悲の心に満ちていました。彼はこのようにして、僧団の比丘たちが戒律をより良く理解し、守るのを助けました。

仏陀の称賛:僧団の模範

優婆離尊者の戒律を守る精神は、仏陀から高く評価されました。仏陀は何度も僧団の集会で、優婆離尊者を「持戒第一」と称賛し、すべての比丘たちに彼を見習うよう呼びかけました。

仏陀は言いました。「優婆離比丘は、私の教えにおいて、戒律を最もよく守る者である。彼の戒律に対する理解と実践は、最高のレベルに達している。あなたたちは彼を模範とし、戒律を守り、身心を清浄に保ちなさい。」

優婆離尊者は仏陀の称賛を受けても、決して驕り高ぶることはありませんでした。彼は常に謙虚で慎重な態度を保ち、修行に励み続けました。彼は自分自身が戒律を厳守するだけでなく、他の比丘たちに戒律を解説し、彼らが修行上の問題を解決するのを助けました。

最初の仏典結集:律蔵の誦出者

仏陀が入滅した後、仏陀の教えを保存するため、僧団は最初の仏典結集を行うことを決定しました。結集とは、仏陀が生涯にわたって説いた教えと定めた戒律を整理、編集し、統一された経典を作成することです。

この結集において、優婆離尊者は律蔵(戒律に関する教え)の誦出者に選ばれました。これは非常に重要な任務でした。なぜなら、律蔵は仏教僧団の行動規範であり、仏教徒の修行の基礎となるものだからです。

優婆離尊者は、戒律に対する深い理解と驚異的な記憶力によって、仏陀が生涯にわたって定めた戒律を、完全かつ正確に暗唱しました。彼の暗唱は、集まった人々によって共同で検討され、文字に記録され、仏教の『律蔵』となりました。

優婆離尊者の最初の結集における貢献は、計り知れません。彼は仏教の戒律の確立と伝承に、確固たる基礎を築きました。優婆離尊者がいなければ、今日の仏教戒律は存在しなかったと言っても過言ではありません。

謙虚さと平等:カーストを超える聖者

優婆離尊者は低い身分の出身でしたが、そのことで卑屈になることはありませんでした。彼は自身の修行と徳によって、全ての人々から尊敬を勝ち取りました。

僧団の中で、彼はすべての比丘を平等に扱い、高貴な身分の王子であろうと、低い身分の平民であろうと、カーストで区別することはありませんでした。

ある時、釈迦族出身の王子である比丘たちが、優婆離尊者が低い身分の出身であるという理由で、彼に敬意を払うことを拒みました。仏陀はこのことを知り、彼らを厳しく叱責し、こう言いました。「優婆離は低い身分の出身だが、戒律を厳格に守り、徳も高い。あなたたちは彼を見下すのではなく、彼から学ぶべきだ。」

仏陀の教えを聞いて、王子たちは深く恥じ入りました。彼らは自分の過ちを認め、優婆離尊者に謝罪し、今後は謙虚に彼から学ぶことを誓いました。

優婆離尊者は自身の行動によって、仏陀の「衆生平等」の教えを体現しました。彼はカーストの壁を乗り越え、尊敬される聖者となったのです。

結び:持戒の模範、平等の象徴

優婆離尊者の一生は、卑しい身分から崇高な境地へ、凡夫から聖者へと至る道のりでした。彼は戒律の厳格な遵守、仏法への深い理解、そしてすべての人々に対する平等な慈悲の心によって、仏教史における偉大な修行者となりました。

彼の物語は、私たちに深い示唆を与えてくれます。出身は重要ではなく、重要なのは私たちの修行と徳であること。戒律は修行の基礎であり、戒律を守ることで身心を清浄に保ち、解脱へと至ることができること。そして、すべての衆生は平等であり、私たちはすべての人を尊重し、カースト、地位、富などで区別すべきではないこと。

優婆離尊者の精神は、私たちが修行の道を歩み続け、戒律を厳守し、精進し、真理を求め、人々を救う上で、永遠に私たちを鼓舞し続けるでしょう。彼の戒律を守る姿は、後世の修行者たちに残された最も貴重な遺産です。