親が補聴器を嫌がる時に。聞こえを責めずに話すには

夕食の席で同じことを三度聞かれ、つい「さっき言ったでしょう」と返してしまう。親は黙り、子どもの側にも後味の悪さが残る。棚には、買ったまま使われなくなった補聴器がある。あれさえつけてくれれば、と言いたくなる夜もあります。

親が補聴器を嫌がる時は、「使うかどうか」の前に、本人がどこで困っているかを確かめられます。受診へのためらい、装置の不快感、毎日の操作、家族の話し方。別々の問題が、一つの「嫌だ」に重なっているかもしれません。

「聞いていない」と決める前に

聞き返されると、こちらの話に関心がないように感じることがあります。しかし、音が耳に入ることと、言葉の内容を聞き取れることは同じではありません。うなずいていても、大事な部分が伝わっていない場合があります。

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日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の説明は、高齢者との会話で、むやみに声を大きくすることが逆効果になる場合もあるとしています。ゆっくり、はっきり話し、重要な用件を紙に書くといった工夫を紹介しています。

たとえば「来週、いつもの時間に迎えに来るね」を、「火曜日の午前十時」と書いて一緒に見る。テレビがついたまま別の部屋から呼ぶのをやめ、そばで話し始める。聞こえをすべて本人の努力に任せる前に、こちらが変えられる場面があります。

補聴器をしまった理由を、一つ聞く

「どうして使わないの」は、理由を聞くつもりでも、非難として伝わることがあります。「つけた時に、どんなところが気になる?」なら、実際の使い心地へ話を向けられます。返事を急いで埋めず、本人の言葉を待ちます。

「食器の音がうるさい」「人が何人も話すと分からない」「耳に入れるのが面倒」。出てきた答えを、その場で否定しないようにします。家族には小さな不便に見えても、本人は毎日そこにつまずいているのかもしれません。

学会の補聴器の使い始めについての解説にも、音への不快感や、うまく使えないという悩みが取り上げられています。聞こえに合わせた調整と専門医との相談が前提です。「慣れればよい」と家族が我慢を強いたり、装用時間や音量を独断で決めたりする材料にはできません。

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困る場面が一つ分かったら、次の相談で伝えるためにメモできます。装置そのもの、聞く環境、扱い方のどこに相談が必要かを、専門家と確かめる手がかりになります。

受診と購入を、一度に決めなくても

まだ耳鼻咽喉科で確認していない場合、「買いに行こう」から話を始めると、費用や見た目への抵抗ばかりが前に出ることがあります。「聞こえのことで、一度相談してみない?」と、検査や相談の段階を分けて話せます。

学会の補聴器選びの案内でも、聞こえに不安がある時には耳鼻咽喉科で検査を受け、必要に応じて補聴器を検討する流れが示されています。家族から見た様子だけで、原因や適した装置を決めることはできません。すでに使っている場合も、気になることを受診先や調整を受けた窓口へ伝えられます。

仏教の言葉は、説得の成功を保証しない

パーリ経典の『中部』58、アバヤ王子への教えでは、釈迦が言葉を発する時、真実であるか、益があるか、適切な時であるかを見ています。相手に好まれる言葉だけに限る教えではありません。その背景には、人々への慈しみがあります。

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この教えを家族の会話に照らすなら、「聞こえが心配」という内容と、「年なんだから言うことを聞いて」という苛立ちを分けてみます。同じ心配でも、親戚の前で繰り返すのか、本人と落ち着いて話すのかで、受けとめる負担は違います。

ただし、言葉を整えれば必ず親が同意する、という約束はありません。「今日は話したくない」と言われたら、次に話す機会を相談することもできます。親の免許返納を話す時にも関わる、相手の生活を知ろうとする姿勢です。補聴器を使うことだけを、親子関係の採点基準にしないでいたいところです。

家族の側も、伝える仕事を分ける

通院の予定を毎回一人だけが説明し、何度も確認していると、疲れから声が荒くなることがあります。家族で予定を書いて共有する、説明する人を交代する、本人が見やすい場所を一緒に決める。小さな分担でも、同じ人が繰り返し怒る状況を変える余地があります。

きょうだいで介護方針が違う時のように、離れて暮らす家族と日々の困り方が共有できていない場合もあります。「母は頑固だ」では伝わらない場面を、「電話で受診日が伝わらなかった」と具体的に話せます。

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次の会話は、本人が大事にしていることから

孫の話を聞きたいのか、集まりに参加したいのか、買い物で聞き返すのがつらいのか。家族が不便に感じることと、本人が何とかしたいことには違いがあるかもしれません。まず一つ、聞きたい場面を尋ねてみます。

補聴器をめぐる相談が続く間も、会話は今日からあります。予定を書いた紙を渡す。返事を待つ。聞き返されたら、同じ速さで繰り返す前に言い方を変える。棚の装置だけを見つめていた時間から、目の前の人と話す時間へ戻れます。

よくある質問

補聴器を買ったのに、親が使ってくれません。

まず、音がうるさい、装着が気になる、操作が難しいなど、どこで困っているかを本人に聞きます。聞こえ方に合わせた調整や相談が必要な場合もあるため、使っていないことを責めず、受診先や調整を受けた窓口へ困りごとを伝えられます。

耳が遠い親には、大声で話したほうがよいですか?

むやみに声を大きくしても、聞き取りやすくなるとは限りません。ゆっくり、はっきり伝え、大切な日時や名前は書いて示す方法があります。本人がどのような伝え方なら分かりやすいかも確かめます。

親を説得できない自分は、冷たいのでしょうか?

一度の会話で補聴器を使うと決まらなくても、関わりが失敗したとは限りません。何に困っているかを聞き、家族の伝え方を変え、必要な相談先を一緒に確かめることも支えになります。家族だけで聞こえの原因や適した装置を決める必要はありません。

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